一昨年ジョッキーを引退し、このたび大井競馬場の調教師となりました坂井英光です。
アメリカといえば、ジョッキー時代に遠征する機会があり、向こうのレースも乗せて頂けたのですが、まず要求されたのはテンのスピード争いに勝ち抜き、あとは如何にゴールまでバテさせないかのスタミナでした。
スタートからスロー。道中はじっくり脚を溜めて末脚勝負の傾向があるヨーロッパとは真逆の競馬でしたが、大井競馬を初めとした南関の競馬場や全国の地方競馬は、皆さまがご存知の通り小回りコースが主体でテンの争いが厳しく、それでいて終いの脚を残せる事が勝利への近道。
アメリカ競馬と大井競馬のレース傾向が似ているように、やはりサラブレッド自体にも幾つかの共通点があります。テンのスピード争いに勝つべく類稀なトモの筋肉量。深くて重い砂に対応できる胴幅の広さや、若干立ち気味な繋ぎの角度など、南関競馬で活躍する馬たちとの共通点が馬体にも多く見受けられ、アメリカ産馬の適性が南関競馬に高く通ずる事は想像に難くありません。
僕もジョッキー時代は、如何に上手く乗って勝利する事だけを追求していましたが、これからは調教師に立場が変わり、如何に管理馬の好状態を維持させてレースに出走させられるかが重要課題です。そのような観点から求められるのは、産まれてから育成される過程で育まれる強靭な肉体の形成。
土壌の良い広大な放牧地で育つアメリカ産馬は見た目にも骨量が豊富ですし、競走馬社会における過酷な調教にも耐え得る体質の強さを備えているのではと注目しています。特に若い競走馬は、レースだけでなく調教過程でさえも強い追い切り後に、ソエや骨膜、骨瘤が出た痛みで休養せざるを得ない状況に陥ってしまったり、デビューまでなかなか順調に進んでくれないのが現実です。
故に、良質な競走馬との出会いは、馬主さんだけでなく、調教師として好成績を収める為にも最重要事項と言え、アメリカ産馬の預託はその近道と言えるかもしれません。
これからトラヴァーズで馬主ライフをエンジョイされる方々には、まず順調にデビュー出来ることを前提として、とにかく何にも変え難い競馬で勝つ喜びを1勝でも多く体験して頂ければと願っています。
by 調教師:坂井英光
1995年のデビューから2018年の騎手引退までに通算2028勝を挙げ、先行して脚を余さない騎乗ぶりが印象深い言わずと知れた大井競馬の名手。
人格者でサークル内の人望も厚く、ジョッキーの晩年は騎手会長も務める。息子の坂井瑠星は、JRAのリーディングトレーナー矢作厩舎の所属騎手で現在37勝と活躍中。
7月には故郷とも言える大井競馬でGⅠ・ジャパンダートをダノンファラオで勝利したばかり。
なお、ダノンファラオの父アメリカンファラオは、アメリカの競走馬で主な勝ち鞍はクラシック三冠や、ブリーダーズカップ・クラシックがある。